それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ぐるぐると親戚のウタクの酔った声がよみがえる。

 

 テムルはさあ、ホントに綺麗な顔をしてて、腕も足も細くて、少年っていうより少女みたいだった。でも誰よりも学問に熱中していて、そして強かった。細いのは仕方がないさ、ずっと寝付いていた奴なんだから、ってドヒャンが良く食え食えって促してたなあ・・・。何でもおいしそうに食って、そりゃかわいかった。

 テムルに姉上がいるっていう話が流れたとき、悪口も一緒に流れたよ・・・女なのに学問を好むなんて品がない、貧乏両班はこれだから、とか、学問をする女なぞ醜女に違いない、笑いもしないんだろうな年増で嫁の貰い手すらつかないんだろう、って。俺たちはさあ・・・テムルのことが好きだったし可愛かったし、友人だと思ってたけど、派閥の関係でそんな時口をつぐんでかばってやりさえしなかった。そりゃ、イ・ソンジュンやコロ、ヨリムを信頼するよなあ・・・あいつらは本当にテムルを守ってた。それに、テムルの姉上だぜ?テムルが自分によく似ているって言うんだから、きれいな方に決まってるじゃないか!でも俺たちはそれすら言ってやれなかった。何度かテムルを見殺しにするところだった。弱かったよ・・・。今思えば、俺は、俺たちは、なんて情けない男だったんだろう、と思うね。

 

 テムルテムルテムル・・・ウタクは何度もその名を呼んだ。テムルはキム・ユンシクのあだ名だったはずだ。なのに、ク・ヨンハはムン大監の奥方をその名で呼んでいる。

 

 

 暴いてはならない何かに触れた気がして、ウジョンは体を震わせた。気づくな。気づくな。忘れろ。

 

 

 商団を出て市を歩いていると若い娘が目に入る。平民と両班の娘の違いはすぐに分かる。着ているものの良しあしもそうだが、両班の娘は総じて結い上げた前髪の所にペッシテンギという飾り物をつけている。いい家の娘は大概供の下女か下人が一人はついてきている。14,5才だろうか、とウジョンはぼうっと考えた。ムン大監の奥方は、少年のようなキム・ユンシクが成均館に入るまで、彼に学問を教え、その上筆写の仕事で金まで稼いでいたというではないか。この娘たちの年頃、習い事や買い物などで出歩くのではなく、稼ぐために仕事を求めて歩いていたはずだ。そうだ。だからテムルなのだ。弟と同じように呼ばれているのだ。ク・ヨンハ様の悪ふざけだ。ほら、ムン大監様と仲が良いのだから・・・。

 

 

 しばらくして、画帳は出来上がった。題字はウジョンの進言通り王様に筆を執ってもらえたので、どこからも文句が出ずに終わった。検分した王妃は、私も共に詩の教授を受けたいものです、というほど、絵の詩に対する理解力の補助の力は大きいものになりそうだった。

 

 ウジョンが漢詩の教本に絵を添えるという仕事を承ってから、半年ほどが経っていた。真冬のその日、新年から世子さまが漢詩を学ばれる、ムン大監が教授として王宮に再び上がることになる、と少しだけ騒がれるようになって数日。

 

 王宮から帰宅の途に就いていたウジョンは、前から来るちょっとした行列に気付いた。女輿とその前後に着く下人と下女が二人ずつ、そしてその傍ら、馬を悠然と歩かせている・・・。

 

 「おう。」

 

 わきによけて深く腰折ったウジョンを見つけて、笠を食いッと上げたのはムン・ジェシンだった。ジェシンもすぐにウジョンだと気づき、輿を止め、馬から飛び降りてきた。

 

 「あ・・・足を止めさせまして申し訳ありません。」

 

 通り過ぎてくれても良かったのだ。ウジョンは今回の仕事がまあまあ成功はしたものの、矢張り下っ端役人。大監と呼ばれる地位まで上り詰めた人の傍は緊張する。今はいくら無役であっても。

 

 「いや、こちらこそ道を譲ってもらってすまない。この寒空だ。妻を馬に乗せるにははばかられたから、こんな大げさな行列になってしまった。」

 

 降ろされた女輿の扉が少し開く。すると中から白い手が伸びて、扉をあけ放ってしまった。

 

 「どうした?気分でも悪いか?」

 

 ムン大監の声はひたすら優しかった。

 

 

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