平成31年度、技術士試験制度の改正により、必須科目が記述式になります。上下水道部門では、上水道共通のテーマについて勉強する必要があります。そこで、新聞や雑誌で取り上げられた水循環、水道、下水道に関する記事のうち、技術士試験で出題される可能性がある事柄について解説をしたいと思います。
今日は、下水道による「排除・処理」について、お話したいと思います。
●下水道の主目的とは?
下水道ビジョンでは、下水道の役割を「排除・処理」から「循環」にシフトすることを提言しています。
下水道ビジョンを勉強する上で、「循環」という概念を理解しておく必要があるわけですが、「循環」よりも前に、まずは、下水道の主目的である「排除・処理」について、ちゃんと理解しておく必要があります。
そもそもですが、一体何を「排除」するのか?
生活雑排水(台所、風呂、洗濯等の排水)と汚水(トイレのし尿)です。それと、雨水です。
これらの水を集めて、最終的に、公共用水域(海、河川、湖沼)に排水することが、排除です。
下水道が普及する以前の話です。1980年代以前は、多くの家のトイレは、汲み取り式でした。屋内の一部であるトイレの中に「し尿」が存在し続けるわけですから、当然、臭いがありました。キレイなものではなかったです。これが、下水道が普及して、水洗化した結果、トイレがとてもキレイになりました。
それから、生活雑排水については、昔は水路や小さな川に垂れ流しでした。川等の底にはヘドロが溜まっていて、黒く淀んでいました。僕らはこれを「どぶ川」と呼んでいました。当然ですが、どぶ川の水が流れ着く河川や海も汚れていました。これが、下水道が普及して、管渠に生活雑排水を流すようにした結果、川、河川、海がキレイになりました。
これらが、下水道による生活雑排水と汚水の「排除」です。
少し話はそれますが、この「排除」に欠かせないのが水道です。水道は、飲料水や炊事等の「飲食」、風呂や洗濯等の「洗浄」が主目的ですが、生活雑排水や汚水を下水道管渠に運搬する、つまり「排除」も重要な役割になるわけです。それから、水道には、火災時に消火するという「消防水利」という役割もありますね。
話を下水道に戻します。
それから、下水道は、生活雑排水や汚水の排除だけではなく、雨水の排除も行います。昔は、河川の近くの地域等、地盤高が低いエリアでは、ちょっとした雨で水路があふれて、浸水していました。下水道の普及により、雨を集水して、これをポンプで汲み上げて、河川に放流することにより、浸水被害を防止できるようになりました。
これが、下水道による雨水の「排除」です。
次に「処理」です。
「処理」とは、生活雑排水や汚水を、公共用水域に放流できるレベルまで浄化することです。
具体的は、終末処分場で、生活雑排水や汚水に含まれる固形物を沈でんさせ、有機物を生物処理して、塩素により滅菌します。こうした処理を施してから、放流をするので、水路や小さな川は「ドブ川」にならないですし、河川や海では赤潮が発生しなくなりました。ありがたいことです。
こうした終末処分場ですが、処理したの放流先は海の方がいいです。なぜなら、河川の場合、下流域で水道が取水する可能性があるからです。このため、多くの終末処分場は、海域付近に建設されています。また、河川の下流域に人口と産業が集中しているケースが多いので、自ずと海域付近に終末処分場が整備されることになります。
ただし、海域付近に終末処分場があるということは、遠く離れた中山間部までの離隔は大きくなります。
自ずと、整備するべき管渠の距離も長くなります。そして、中山間部では人口が分散しています。
海域付近の終末処分場まで、生活雑排水や汚水を移送するのは非効率です。
このため、排除・処理を実施できる小規模施設を整備するようになりました。
各家庭まで管渠を整備して、生活雑排水や汚水に含まれる固形物を沈でんさせ、有機物を生物処理する施設を整備しました。そして、法律に適合した処理水を河川に放流します。
これらは、「農業集落排水」と呼ばれています。
また、下水道施設や農業集落排水の整備対象エリアになっていな地域もあります。こうした地域では、「合併浄化槽」を整備する取組も進めていまする。
合併浄化槽は、各家庭でタンクを埋設して、タンク内で生活雑排水や汚水を生物処理するものです。処理した水を水路や小さな川に放流します。
ちなみに、単独浄化槽は汚水のみ処理する方式で、生活雑排水はたれ流しになります。このため、現在は設置できないことになっています。
このように「処理」には、法令上の「下水道」と、「農業集落排水」、「合併浄化槽」の3種類があるわけです。
ここまが、下水道による「排除・処理」です。
まずは、ここまでを理解しておきましょう。
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