この世の華 その39 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「君と僕は親友じゃないか。親友のために骨を折るのは苦じゃないよ。それに僕はうれしいことにユンシクとも親友だっただろう?俺が役に立ったならこんなに喜ばしいことはないよ。」

 

 穏やかな口調のソンジュンにユニがにっこりとほほ笑む。もうその姿に嫉妬するほど、ジェシンの心は狭くはなかった。

 

 もっともっと若き日。ソンジュンと儒生のキム・ユンシクの切れない友人としての絆にすらジェシンは嫉妬した。ソンジュンより先に、キム・ユンシクが女人であると知ってしまったせいもあっただろう。気になる後輩が、女人として気になる人に代わりつつあったあの日々、ジェシンは自分の想いと戦うことに必死だった。ユンシクやソンジュンと出会う前とは違った尖り方をしていたと思う。そう、自分の群れを守る野犬の頭みたいな、毛を逆立てた状態だったはずだ。

 

 成均館のキム・ユンシク・・・つまり当時ユンシクを名乗っていたユニは、好悪は別にしても成均館の華だった。若く、優秀で、そして美しい。少し幼く、男にしては線が細かったが、それも魅力の一つだった。そしてそれが弱点にもなった。けれど弱点を上回る魅力が大勢を惑わした。本人はその気がなくとも、花は・・・華やかな花はたった一本でも香りを漂わせ人を振り向かせるのだ。その花を守るものが必死にならねばならないぐらい、だれかれ構わず。

 

 ユニは常々言っていた。成均館で無事に過ごせたのは、サヨン・・・今は夫のジェシンとソンジュン、ヨンハのおかげだ、と。無事に、それ以上に儒生として真っ当に頑張り、その上楽しい事すら沢山あった。素晴らしい宝物を持たせてくれた時だった、と。それはムン家に嫁ぎ、人の妻となって世に出なくなったユニの美しく、いい思い出だったはずだ。それが、ユンシクの死と共に後悔と重荷になった。

 

 私は楽しかった。思い切り学問にも打ち込めた。小科も大科にも全力で挑んだ。一年にも満たない官吏の仕事すら経験した。けれど、ユンシクは・・・それを気に病んでいた。私がやりたくないことをユンシクのためだけにやったのだと思う?確かに世間を欺いて・・・女なのに男だと言って生きることは恐怖だったわ。天をも恐れぬ行為だったわ。だけど私は・・・私は自分がたっている場所で精いっぱい生きたの。精いっぱいやっているとね、辛いことも苦しいこともあるけど、やりがいも楽しいことも、達成感もあったわ。目標もあったから・・・キム家を再興するっていう目標ね、だからくじけることもなかった。何よりも、堂々と学問が出来て、それについて語り合える仲間がいて、困ったら手を差し伸べてくれる人がいるのだと知れて、逆に私でも役に立つ事があると分かる時もあって、本当に楽しかった。楽しかったの・・・!

 あと一年・・・いえ、二年待っていたら、その生活はユンシクのものだったかもしれないの。私がちゃんと待てたら・・・ユンシクの体が回復するのを待っていたら、あの子が成均館に行き、友人を作り、大きな試練に挑戦で来たわ。私がでしゃばって、全部を取り上げたの・・・あの子は私が辛かっただろうことばかり気にするわ。勿論苦労だってあったけど、楽しいことも沢山・・・そうなの、私は、苦労も楽しさもすべて・・・全てユンシクから取り上げてしまったのだわ。なのにあの子は優しいから・・・優しいから・・・私のことばかりに気に掛けて・・・

 

 

 あんなに分かり合えていたはずの姉弟が、根本的なところですれ違っていたことにジェシンは驚いた。確かにユンシクはユニ以上に控えめで大人しやかな男だったが、それでも快活に笑い、ソンジュンと仲良くなってソンジュンから笑顔を引き出す名人だった。ジェシンにとってもユニの弟というだけでなく、愛嬌のある彼の優しさが好きだった。ヨンハが官吏を引くときには涙ぐみ、ヨンハが笑いながら涙声を出したのは今では笑い話だ。心からジェシンやヨンハを慕い、ソンジュンを友人として大切に思う気持ちが伝わる、いい男だったのだ。

 

 だからユンシクは不幸ではなかった、そう伝えたい。けれどその時のユニには届かないだろう、と判断したジェシンは、王宮を引いたのだ。ユニの傍で、ユニの冷え切った体と心を温めてやりたかった。野犬の頭に戻らねばならない時だったのだ。

 

 

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