【技術士対策13】AIによる更新計画 | 技術士を目指す人の会

技術士を目指す人の会

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、宅建士、電験三種等に合格。

新聞や雑誌で取り上げられた水循環、水道、下水道に関する記事のうち、技術士試験で出題される可能性があるテーマ、継続研鑚の観点から勉強するべきテーマについて解説をしたいと思います。

今回は6月1日付けの『水道産業新聞』からです。テーマはAIによる更新計画です。

概要は以下のとおりです。 

 

AIで水道管の劣化予測/効率的な管路更新に向け

 /米国フラクタ社と契約を締結/実践導入は国内初/豊田市上下水道局

 豊田市上下水道局は、AIを活用した水道管劣化予測に着手する。5月21日に米国のFracta(フラクタ)と「水道管劣化予測データ作成業務委託」の契約を締結。解析結果は、同局の水道ストックマネジメント計画で決定した優先順位を補完するのに活用し、選択と集中による効率的な管路更新につなげていく。これまで、国内では6事業体でAIによる水道管劣化予測の実証実験が行われているが、実践導入は同局が全国で初めてとなる。契約期間は令和3年3月12日までで、契約金額は1876万7100円となる。

http://www.suidou.co.jp/200601.htm

 

 

●管路の更新

布設からの経過年数が長いほど、経年劣化が進むため、漏水リスク高くなります。

管路の法定耐用年数は40年です。

この年数で更新すれば、管路の更新計画は完成します。

漏水事故はゼロにならないまでも、大半を回避することが可能です。

ただし、そうはいかないのが現実です。

管路を40年周期で更新することは、毎年、全管路の2.5%を更新することを意味します。

水道の資産の80%は管路だと言われています。

つまり、管路を法定耐用年数で更新することは、事業体が有する全資産の2%(80%×2.5%)を毎年更新するわけで、膨大な事業費が必要になります。

この事業を行うことで、新たな収益が得られるのであればいいのですが、残念ながら、管路の更新により、収益がアップするわけではありません。

水道料金の収入が右肩上がりならいいのですが、人口減少社会が到来した中、収益は減少傾向にあるため、管路を法定耐用年数で更新することは、極めて困難なのです。

そこで、登場するのが機能診断と劣化予測です。

管路の機能診断に基づき、劣化予測を行います。

その結果を踏まえて、管路をできるだけ長期間、使用するわけです。

  

●管路の機能診断

管路の機能診断は、2つの方法に大別できます。

1つ目は、直接診断です。

2つ目は、間接診断です。

 

まず、直接診断です。管路の表面の劣化状況、エックス線による管厚調査、管内カメラによる内面劣化状況の確認等します。

これにより、管路を更新する必要性とその時期を見極めます。

ただし、管路の多くは埋設されています。直接診断を行うためには、掘削を行う必要があります。膨大な労力と費用が必要です。

 

そこで、クローズアップされるのが間接診断です。

間接診断は、日常の維持管理業務により得られた記録等をもとに管路を評価するものです。

机上で診断が完了します。

具体的には、以下のような評価項目があります。

これらを総合的に評価すれば、管路の劣化状況が推測できます。

 

①管体基本情報(布設年度、管種、口径、延長、塗装や被覆の有無、耐震性の有無等)

②埋設環境情報(土被り、土壌の腐食性、交通量等)

③水道水の状況(水圧、水量、水質)

④漏水量

⑤漏水事故情報(事故率)

⑥苦情件数(苦情率)

 

例えば、⑤漏水事故情報、⑥苦情情報が確認された管路は、機能評価の点数が低くなるはずです。

これらを抽出すれば、劣化状況を踏まえた更新が可能です。

しかしながら、管路の漏水や苦情が発生するまでは、管路の評価が下がりません。

つまり、どこかで事故や苦情が発生するまで、管路を更新することができません。

これは、対処療法です。

 

次に、耐用年数を法定の1.5倍にあたる60年に設定します。

60年経過で一律に更新するのであれば、事故の有無によらず、計画的に更新を行うことができます。

しかしながら、60年が適切なのかどうか、技術的な根拠がありません。

これだけでは、診断とは言い難いです。

 

そこで、第三案です。

過去の事故や苦情の案件について、管種、口径、経過年数、埋設環境等に整理して、予測式を作ります。

例えば、事故が発生したときの管路の残存管厚z、経過年数tがわかれば、腐食速度vがわかります。

1次関数で単純に考えるなら、管路の腐食に関する予測式t=z/vで表現できます。

(実際には、腐食の進行は指数関数で表現されますので少し複雑になりますが、概ねこの考え方です。)

例えば、事故発生時の管厚が20mm、経過年数が50年だったなら、腐食速度は0.4mm/年になります。

同一土壌において管厚が60mmの管路があるなら、事故発生時の管厚20mmに到達するまでに40mmの厚みがあります。

腐食速度が0.4mm/年なら、この管路は100年使用できます

こうしたデータを収集すれば、土壌毎、管種毎に劣化予測式を作ることができます。

さらに、前述の①~⑥の評価項目も加味すれば、管路の「事故の起こりやすさ」を総合的に判断できます。

そして、この判断を踏まえた管路更新計画を策定することができます。

  

●管路の更新計画

前述の方法を用いて、全管路の耐用年数を設定します。

これにより、更新時期を見極めることができます。

ただし、この方法だと、同じ年度に更新が集中することが予想されます。

限られた財源で管路を更新するためには、更新時期の調整が必要になります。

また、前述の考え方では、口径が大きいほど管厚が大きくなるため、結果的に、大口径の管路の更新が先送りになります。

潜在的なリスクを考慮しないことが問題になります。

これまでは、「事故の起こりやすさ」だけで評価を行っていましたが、「事故が発生した時の影響」までを考慮する必要があるわけです。

こうしたことから、更新について検討する場合は、⑧社会的情報を考慮するべきです。

⑧社会的情報とは、給水人口、給水量、商業施設、重要給水施設の有無、埋設された道路・軌道の基幹性等です。

この⑧社会的情報を、前述の①~⑦に加えて評価するべきです。

いろいろと説明しましたが、要するに、管厚が薄くなった基幹管路をピックアップして優先的に更新するわけです。

逆に言えば、管厚が薄くならないような土壌環境の支管は更新を先送りにします。

これが「選択と集中」です。

 

●AIによる更新計画

こういった検討作業は、マッピングシステムを使えば実施することができます。

技術的な検討に基づいて、全管路の更新計画を策定することができるわけです。

ただし、この作業をやるには経験と労力が必要です。

このため、更新計画を1回作ってしまうとそれっきりになってしまいがちです

漏水事故や管路更新等の新たなデータが追加されても、腐食に関する予測式も更新計画も刷新されにくいです。

そこで登場するのがAIです。

様々なデータをシステムに転送します。

ビッグデータが存在するなら、AIが新たな予測式を構築します。

事業費の条件設定をすれば、更新すべき管路を抽出し、自動的に更新計画を策定します。

どうやら、こうした時代が到来しているようです。

 

●前回の【技術士対策】

※前回分を読みたい方は こちら をどうぞ。

 

●必須科目対策に必要な下水道の基礎

※マネジメントサイクルについては こちら をどうぞ。

※アセットマネジメントとストックマネジメントの違いについては こちら をどうぞ。

※「持続と進化」については こちら をどうぞ。

※「資源の循環」については こちら をどうぞ。

※「水の循環」については こちら をどうぞ。

※「下水道による排除・処理」については こちら をどうぞ。

※「新下水道ビジョン加速戦略」については こちら をどうぞ。

 

●試験と解答例

※ 令和元年の試験問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

 

●試験対策

※ 令和2年の予想問題を見たい方は、 こちら をどうぞ。

※ 技術士合格法のテキストを最初から見たい方は、 こちら をどうぞ。

 

OSZAR »